久しぶりの工作ネタです。
以前、オフグリッド太陽光発電・蓄電システムを自作し、運用していました。その後引越しをしましたが、現在住んでいる家では「地域の景観ルール」の制約から、自作の太陽光発電システムは諦めざるを得ませんでした。
その代わり、景観上の制約をクリアした電気メーカー製の系統連動型太陽光発電システム(いわゆる普通の太陽光発電システム)を今の家では設置しています。以前のシステムで使用していたリチウムイオン電池が使い道なく残されており、もったいないのでこれを活用すべく、現在の状況に合わせてシステムを考えてみました。
背景
商用電源(電力会社から購入する電気)は新電力のLooopでんきと契約しています。自前で太陽光発電をしていると、昼間は電力を購入することはほとんどないため、月間の電力使用量は少ないです。従来の〇〇電力は「基本料金 + kWh単価 x 使用電力量」で料金が計算されます。使用電力量が少ないため、月々の電気料金は基本料金が占める割合がかなり高くなり、この部分が気になっていました。
Looopでんきは月々の基本料金が0円で「単価 x 使用電力量」で電気料金が計算されます。基本料金がない代わりに、単価の部分が他の電力会社よりも高くなっています。使用電力量が少ないため、基本料金がかからないLooopでんきに変えたことで電気料金はかなり安くなりましたが、今度はこれをほぼ0円にできないか? という欲が出てきました。使用電力量を0に近づけるという試みです。
太陽光発電で発電した電気で自分で使いきれなかった分は売電していますが、
買電料金 < 売電収入
なので買電料金を0円に近づける理由は全くありません。買電料金を下げるには電池に電力を充電する必要があり、そうすると売電の電力が減ります。そのため、「売電収入 – 売電料金」の差は変わらないか、電力の変換ロス等でかえって減少して損をする可能性があります。ここは(売電単価、買電単価、システムで発生するロスの割合)の3つのパラメータの兼ね合いとなります。
金銭的にはほとんど意味がない試みをしようとしていますが、次の点については大きな意味があります。
- 停電時の備え
- 世の中の電力需給の平準化(電力不足で節電要請が出た際に、電気を購入しない)
引越し前の家でオフグリッドのシステムを運用中に、大規模停電に遭遇しました。太陽光で発電した電力を蓄電し、24時間自給自足した電力で電気を賄っていたため、停電の影響をほとんど受けませんでした。周りが右往左往している中で落ち着いて生活をすることができ、この時の安心感は大きなものがありました。携帯電話の充電等で、近所の方々への貢献もできました。
材料
すでに所有していたものは以下のとおりです。自前の発電手段としては太陽光発電システムの他に、ガス発電暖房システムがあります。ガスでエンジンを回して発電し、その際に発生する排熱で暖房をします。ガスのエネルギーを余すことなく活用できる優れものです。また、ガスさえ供給されていれば、太陽光発電が不可能な夜間や天気が悪い日でも自前で発電できるという強みがあります。
- 太陽光発電システム
- ガス発電暖房機コレモ
- リチウムイオン蓄電池約10kWh (48V 40Ah x 5個並列) – オフグリッドシステムで使用していたものを流用
- チャージコントローラ Tristar TS-60 – オフグリッドシステムで使用していたものを流用
- Raspberry Pi Zero Wと周辺回路(RS-232C、有機ELディスプレイなど) – オフグリッドシステムで使用していたものを流用
新たに購入したものは以下のとおりです。
電菱SD2500
今回の工作のキモとなる機器がSD2500です。一般家庭の電力は通常単相3線式で供給され、3本の配線で200Vと100Vの電力を取り出すことが可能となっています。SD2500は単体で蓄電池からの直流電力(DC)から100Vの交流(AC)を生成することができますが、2台のSD2500を組み合わせることにより、単相3線式の電力を生成することができます。
単相3線式の電力を生成できるということは、200V機器、100V機器を問わず、家庭のすべての機器を動かすことができるということです。
SD2500 1台で2500Wを生成、2台で合計5000Wを生成できます。これだけの電力を生成できれば我が家では十分です。SD2500-48の48は、入力の直流電圧が48V用のモデルを表しています。
また、SD2500は内部に「バイパスリレー」を内蔵しており、商用電力とインバータで生成した電力を電磁リレーで切り替えることができます。リレーはソフトウェアにより制御可能です。
システム全体図
今回は家全体の電力を賄うという内容ですので、分電盤に手を入れます。分電盤の中を改造するため、電気工事士の資格が必要となります。当然ながら、私は第二種電気工事士の資格を取得済みです。
分電盤の回路は下の図のようになっており、電力会社からの商用電源と太陽光発電システムからの電力がELB(漏電ブレーカ)を通して入り、分岐してそれぞれの回路に分配されています。スマートメータ化されているため、サービスブレーカは分電盤にはありません。
下の図が改造後の回路となります。オレンジ色の部分が今回追加する部分です。ELBと分岐ブレーカ群との間の配線を切断、迂回し、SD2500を通して戻すという回路に変更します。
切替開閉器DS633P60Aはなくても問題ないのですが、保険としてつけています。これを手動操作により切り替えることで、何かあった際に改造前の状態にすぐに戻すことができます。
配線
配線は取り回しがしやすいKIVで行いました。想定される電流を考慮して線の太さは8sq(許容電流 61A)としました。余裕を持って14sq(許容電流 88A)にしたかったのですが、壁の裏を何とか通すには太すぎたため諦めました。
KIVの両端にR端子を圧着し、ブレーカ等にねじ止めして配線します。電力線として3色のKIVと、アース線としてIV線 2sqを用意しました。
単相3線式の配線は3本(+アース)ですが、SD2500を並列接続する際に中性線(N)を2台のSD2500に分岐して配線しなければならないため、途中に端子台を設置して分配しています。端子台はプラケースに固定し、配線後、蓋を閉めて密閉しています。
切替開閉器の設置
分電盤に切替開閉器を設置できればよかったのですが、分電盤に空きスペースがなく不可能だったため、切替開閉器は分電盤の下に設置されている情報分電盤の中に設置しました。
情報分電盤(情報盤)とはネットワーク機器を収納する箱で、光回線のONU、ルータ、スイッチングハブなどが収納されています。その中に空きスペースを作って切替開閉器を設置しました。配線は通線器を駆使してなんとか壁の裏を通しました。まずは1本のビニールの紐を通線器で通し、実際の配線は紐の端に結びつけて引っ張るという手法で行き帰り合計6本のKIV線を壁の裏を通しました。
配線後は下の写真のようになりました。後日、配線を増やしたいときに使えるように、ビニールの紐は残してあります。
充電部
蓄電池への充電は、チャージコントローラTS-60で行います。通常は太陽光パネルの出力をチャージコントローラに入力して蓄電池を充電しますが、パネルの代わりに安定化電源で60V程度の直流を発生させ、チャージコントローラに入力して充電します。安定化電源は100Vのコンセントから電源を取りますので、バッテリを充電する際には電力を消費します。電力会社から電力を購入しないように、太陽光発電システムやコレモで発電している時に充電します。
蓄電池の電圧等をモニタするため、Raspberry PiとTS-60をRS-232Cで接続します。以前のオフグリッド太陽光発電システムで使用していたソフトウェアそのままを稼働させているため、
- パネル電圧
- バッテリ電圧
- チャージ電力
- コントローラ温度
を有機ELディスプレイに表示しますが、パネルではなく固定の直流を入力するシステムに変わったため、バッテリ電圧以外は意味のない表示になりました。今後、ソフトウェア面での改良が必要です。
Raspberry PiとSD2500をネットワーク接続して制御しようと考え、USB Ethernetアダプタを用意しましたが、最終的には使用しませんでした。SD2500は直接家庭内LANのスイッチングハブに接続しました。
電池とSD2500
下の写真は充電部、放電部(交流発生部)を含めた全体の写真です。
リチウムイオン電池は48V 40Ah(約2kWh)が6個ありますが、1個の調子が悪いので5個のみ並列接続しています。合計10kWhの蓄電量がありますので、1日普通に暮らせるくらいの電力を蓄電できます。電池が空になる前に太陽光もしくはコレモから充電できれば、外部からの電力が断たれても電気の供給は可能となります。
電池の並列接続ケーブルや電池とSD2500を接続するケーブルは大電流が流れますので、38sq程度の太いKIV線を使用しています。このあたりは以前のオフグリッドシステムを流用しています。
Raspberry Piはディスプレイが見づらかったため、TS-60の内部には収めず、外部に引き出して食品保存用のケースを加工したものに収納しました。
運用
SD2500はHTTP接続によるWeb UIを備えており、ブラウザを通して各種パラメータの設定ができます。また、Web UIからバイパスリレーを操作して、
- 商用電源(電力会社)からの電力をバイパス
- 電池から生成したインバータ出力
を切り替えることができます。
今のところ、運用は完全に手動で行っています。
昼間は以下の手順で太陽光パネルで発電した電力をそのまま使用します。電池を充電する余裕がある場合は発電電力で電池を充電します。
- SD2500のWeb UIからバイパスリレーを商用電源に(実際は太陽光パネルの発電電力が使用される)
- 安定化電源のスイッチを手動でオンして充電を開始、天気の状況で太陽光の発電量が変わるため、曇りや雨の日は太陽光による発電量を超えて電気を消費してしまわないように安定化電源の出力電流を手動で調整
- 電池が満充電になったら安定化電源のスイッチをオフ
夜間や天気が悪い日は以下の手順で電池からの電力に切り替えます。
- SD2500のWeb UIからバイパスリレーをインバータ出力に
運用した結果と課題
このシステムをしばらく運用しましたが、購入する電力量を実際に減らすことができました。しかし、手動で操作する必要があるため、完全に0にするのは難しく、また、運用が結構面倒でした。制御ソフトウェアの開発で、ある程度の自動化が必要と感じました。
太陽光発電連携の蓄電システムは各メーカーが市販しており、それを購入して設置すれば楽なのですが、市販のものは蓄電容量が小さく、かつ非常に高価です。今回の自作システムは市販のものよりも安価である上に、蓄電容量は電池を買い足せばいくらでも増やせるというメリットがあります。
また、次のような課題が見つかりました。
- ファンが意外にうるさい
- 直流->交流、交流->直流の変換回数が多いため、電力損失が気になる
充電時には安定化電源のファンが、放電時にはSD2500のファンが動きます。電力を変換するシステムなので必ず熱が発生します。ファンで冷却する必要がありますが、小さいファンが高い回転数で回るため、大きな音が発生します。吸音材でシステムを囲ったり、静音ファンに取り替える等の改良の余地があります。
電池は直流(DC)、使用する機器は100Vまたは200Vの交流(AC)なので必ずACとDC間の変換が発生します。また、太陽光パネルの出力は直流です。ACアダプタで電源を供給する機器は直流の形で電力を消費します。
例えば、太陽光パネルで発電した電力を電池に蓄電し、夜間にネットワークルータで消費するというシナリオを考えた場合、
太陽光パネル(DC出力)→太陽光発電システムのパワコン(AC出力)→安定化電源(DC出力)→チャージコントローラ(DC出力)→蓄電池→インバータ(AC出力)→ACアダプタ(DC出力)→ネットワークルータ
という経路をたどります。この間、ACとDCの変換は4回も発生し、かなりの損失が見込めます。一律に変換効率90%とすると、
0.9^4 = 0.6561
4回の変換で電力の35%が熱として無駄になってしまうことになります。電池の充放電でも損失があると思いますので、さらに損失は大きいと思われます。
これを解決するための方法としては、二つのアイデアがあります。
ひとつは太陽光パネルから蓄電池に直接充電することで、太陽光パネルと蓄電池間のAC/DC変換の1往復がなくなります。これはオフグリッドの太陽光発電システムそのものなので実現は可能です。問題は市販の太陽光発電システムはパネル出力電圧が高く200Vを超えていることで、一般的なチャージコントローラの入力電圧範囲(100V〜150V程度)とは適合しません。これを回避するためには10枚のパネルが直列接続されているものを、5直列, 2並列に組み直す方法があります。この場合出力電圧は半分になるため、チャージコントローラの入力電圧範囲におさめることが可能です。しかし屋根の上に登って作業しなければいけないため、かなりハードルが高いです。
もしくは入力電圧範囲が大きいチャージコントローラを購入するという方法もありますが、高価すぎて割に合いません。
AC/DC変換を減らすもう一つのアイデアとしては、ネットワークルータのように内部的にDCで動作している機器に直接DC給電をするという方法があります。内部的に12V DCで動作している機器は多いと思われますので、蓄電池の48VをDC/DC変換で12Vに降圧し、DC機器に直接給電します。この方法は、DCラインを各部屋まで引かないといけないという問題があります。また、12VじゃないDC機器(5Vや18Vなど)もあり、それらには対応できないという弱点もあります。各種DC電圧を各部屋に配線するというのは現実的ではありません。
まとめ
システムを運用してみて見つかった課題はいろいろありますが、災害時にも電気が使えるという安心感は非常に大きなものがあります。課題については少しずつ改良していきたいと思います。
よろしければ、このブログ記事をAIで生成しようと試みた家を丸ごとバッテリー駆動(AIによる生成編)という記事もご覧ください。